チャプター 276

エル視点

イヤホン越しに、ミラの甘い声がエリックを口説き続けているのが聞こえた。

「エリック、馬鹿なこと言わないで。お金がなかったら、あなたの株を買おうとなんてするかしら?」ミラの口調は完璧に無邪気だったが、その下には計算高い何かが潜んでいた。「私、ずっとまっとうなことをしたかったって知ってるでしょ。演技はただの趣味よ。いつかは人生で何か真剣なことをしないと。私の両親は昔からレイン家のお歴々と親しかったの。事業に失敗したとはいえ、彼らは私にいくらかお金を残してくれた。それを全部、くだらないことに浪費したくないのよ――何か意味のあることをしたいの」

エリックの声が、疑念に満ちた様子で音声か...

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