チャプター 87

エル視点

ブラッドから背を向け、窓の方を向いた私は、深く息を吸い込んだ。高鳴る心臓を必死に落ち着かせようとする。

『しっかりしなさい、エル』私は目を固く閉じ、心の中で自分に言い聞かせた。『ブラッドがどういう人間か、よくわかってるでしょ』

再び目を開けたときには、一瞬感じた希望と興奮の微かなときめきを、無理やり消し去っていた。

「行く時間だ」背後から聞こえてきたブラッドの声は、再び仕事モードの、どこか他人行儀な響きを帯びていた。「今夜の場にふさわしい格好になるよう、マーサが手伝ってくれる」

彼が背を向けて去っていく気配がした。

「エル様?」ドアの向こうから、マーサの明るい声が聞こえる...

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