チャプター 89

エル視点

「さて、これでやっと兄に役目を果たしたと報告できるわね」アビゲイルはそう言うと、意味ありげな微笑みを浮かべ、優雅に席を立った。

私が何か応えるより先に、ブラッドが近くのテーブルからフォークで果物を一切れ取ると、私のほうへ差し出した。とっさに断ろうとした――人前で食べさせてもらうなんて、あまりにも親密すぎる気がしたからだ――だがその時、私たちの周りにまだうろついている女性たちの、不満げな表情が目に入った。

『いいわ。この芝居を信じ込ませる助けになるなら……』

私は口を開け、彼が甘いイチゴを食べさせてくれるのに任せた。フォークをくわえる私の唇を見つめる彼の瞳が、すっと暗くなったこ...

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