チャプター 6.
子供部屋は明るく、広々としていた。壁も、ベビーベッドも、すべてが白で統一されている。それはロリがこれまで見た中で、間違いなく一番可愛らしい子供部屋だった。
白い壁の一面には虹の絵が描かれている。床には厚手の白いラグが敷き詰められ、クローゼットとして使われているであろう大きなマホガニーのワードローブが置かれていた。ドアの横にはおむつ交換台、大きなクリーム色のカウチのそばには引き出し棚があり、窓際にはロッキングチェアが置かれている。そして部屋の中央に置かれたベビーベッドの中で、エミリアが安らかに眠っていた。
ベビーベッドは、その縁に掛けられた黄色いブランケットを除けば、すべてが真っ白だった。
ロリがそっと覗き込むと、赤ん坊はぐっすりと眠っていた。その姿を見た瞬間、胸が強く締め付けられるような感覚に襲われ、抱きしめたいという抗いがたい衝動が湧き上がってきた。彼女は自分の息子を抱く機会を得られなかった。だが、この子は、この赤ちゃんなら抱くことができる。
眠っているエミリアはとても穏やかな顔をしていた。長く濃い睫毛がふっくらとした頬に影を落とし、眠りながら唇を尖らせている。それは美しい光景だった。ロリの視界が涙で滲んだ。
しばらくして、グレースが彼女を部屋の外へと促した。
「今はあんなに静かに寝てるけど、夜中に目が覚めたら大変よ! 結構すごい声で泣くんだから」
廊下に出て、赤ん坊に声が届かない距離まで離れると、グレースはそう言った。
「お腹が空いたでしょう。何か食べるものを用意するわね」
グレースの言葉に、ロリは頷いた。
階段に差し掛かったところで、ロリは急に足を止めた。
(えっ、何?!)
胸に手を当てながら、彼女は自問した。シャツの胸元、ちょうど乳首のあたりが少し濡れているのだ。
立ち止まった彼女を不思議に思い、グレースが振り返った。
彼女はロリのシャツに目を留めると、微笑んだ。
「こんなこと……こんなこと、初めてです!」
ロリは恥ずかしさで頬を赤らめ、シャツの胸元を手で隠しながら言った。
グレースは肩をすくめた。
「ホルモンのせいね、きっと。体ってそういうものなのよ。赤ちゃんを見たから反応しちゃったのね」
ロリは頷いた。
そう、ホルモンだ。論理的な説明としては、それしか考えられなかった。
「着替えてきます」
そう言って彼女は引き返し、自室へと戻った。
部屋に戻ると、ロリはずっと前にグレースがプレゼントしてくれた母乳パッドを探し出した。それは搾乳グッズが詰まったバッグの底に入っていた。これまで使う必要などなかったが、今は必要だった。
新しいブラジャーとブラウスに着替えながら、彼女はため息をついた。
もし赤ちゃんを見るたびにこうなるのなら、慣れるまで少し時間がかかりそうだ。
階下のキッチンへ戻ると、グレースが皿を持って待っていた。
「さて、何がいい? マッシュポテトを作ったの。あと、網の上で冷ましているチキンと、インゲン豆もあるわよ」
ロリは肩をすくめた。
「どれもすごく美味しそう。少しいただけますか」
グレースは頷き、キッチンの反対側にあるチキンの様子を見に行った。
「ところでグレース、何かアドバイスはありますか? 以前はエミリアの世話をしていたんですよね」
ロリが尋ねると、グレースはくすりと笑った。
「ええ、山ほどあるわよ!」
彼女はナイフを手に取り、チキンを切り分けながら言った。
「エミリアは他の赤ちゃんと変わらないわ。赤ちゃんがすることは何でもするの。寝て、食べて、うんちして、泣く。その繰り返し」
「夜通し寝てくれることはないわね。大変だけど、起きちゃうのよ。あらゆる手を尽くしてみたんだけど」
グレースは言葉を続けた。
「ご機嫌なことが多い子だけど、時々、特に夜なんかは何が欲しいわけでもないのに何時間も泣き続けることがあるわ。でも、大抵泣くときは何か理由があるの」
「外に出るのが好きなのよ。昼間、よく家の周りを散歩させていたんだけど、そうするとすごく落ち着くの。泣いているときなんかは特にね」
ロリは頷き、その情報をしっかりと記憶に留めた。
「全体的に見て、あなたなら上手くやれると思うわ。やり方や何をするべきかは、私がいつでも教えるしね」
「ありがとうございます、グレース」
目の前に、ハーブローストチキンとグレービーソース、インゲン豆、そしてマッシュポテトが載った皿が置かれた。
(わあ!)とロリは思った。
ラーメンやトーストではない、まともな食事だ。胃袋もきっと喜ぶだろう。
グレースが、自分に育児経験があると思っているのかどうか、ロリには分からなかった。だが実際には、経験などほとんどなかった。十代の頃、近所の八ヶ月になる赤ん坊を数週間預かったことはあったが、記憶にあるのはそれくらいだ。
おむつの替え方は覚えていたが、ずいぶん前のことだ。それでも、すぐに感覚を取り戻せるだろうという確信はあった。
実のところ、彼女は母親になることや赤ん坊の世話について、多くのことを学ぼうとはしてこなかった。息子を養子に出してしまったからだ。もしグレースがその事実を知ったら、もし真実を知っても同じように接してくれるだろうか、と彼女は思った。
ケイン様も、もし真実を知ったら態度を変えるだろうか。自分の娘のナニーとして、彼女を雇いたいと思うだろうか。
グレースがまだ生後数週間のエミリアについてあれこれと話し続ける間、ロリは黙々と食事を口に運んだ。エミリアについては、まだ生まれたばかりの赤ん坊だという事実以外、知るべきことはそう多くはなかった。
しかし、ロリはグレースがさりげなく教えてくれるアドバイスに感謝していた。まるで、自分が本当にそれを必要とすることを見透かされているかのようだった。
食事を終えると、ロリは再びエミリアの様子を見に行った。赤ちゃんはすでに目を覚まし、体を伸ばしていた。小さな頭を動かしながら、周囲の様子や目の前にいる女性をじっと観察しているようだった。
「はーい」
ロリはできるだけ静かな声を出した。
「こんにちは、ちっちゃな赤ちゃん」
彼女は囁きながらベビーベッドに手を伸ばし、そっと抱き上げた。
その体は腕の中にすっぽりと収まった。あまりにもしっくりときて、まるで最初からそこにいるべき存在であるかのように感じられた。エミリアはぱっちりと目を覚ましており、その瞳は父親と同じ鮮やかなブルーだった。生まれたばかりの赤ん坊とは思えないほどの強い眼差しで、ロリを見つめていた。
ロリは優しくあやしながら、そっと頭を撫でた。赤ちゃんはとても落ち着いているようだった。それに、いい匂いがした。すごくいい匂いだ!
ロリはくんくんと匂いを嗅ぎ、嬉しそうな声を漏らした。
ああ、赤ちゃんの匂い。
うっとりするような、愛おしい赤ちゃんの匂いだ。
「なんて可愛いの」
ロリはそう言って、赤ちゃんの鼻先に触れた。
その時、誰かが部屋に入ってきた。グレースかと思って急いで振り返ると、そこにいたのはガブリエル・ケイン氏だった。
彼は戸口に立ち、まるで彼女を品定めするかのようにしばらくじっと見ていた。
「こんばんは、ケインさん」
ロリが挨拶をすると、男は頷いた。
彼は戸口を塞いでしまうほど大柄だった。
「ワイアットさん。私の申し出を受けてくれて嬉しく思うよ」
ロリは頷いた。
断れるわけないじゃない。
彼女は心の中でそう言ったが、口には出さなかった。
「基本的なルールを決めておきたいので、下に来てくれないか」
ロリは頷いた。
「はい、すぐに行きます」
彼女はそう答えたものの、ナニーになった以上、厳密には赤ちゃんも連れて行くべきなのだろうかと迷った。
ケイン氏は立ち去ろうとして、もう一度中を覗き込んだ。
「それと、おむつを替えたほうがいい」
そう言い残して、彼は静かにドアを閉めた。
ロリは閉まったドアを見つめ、それから赤ちゃんを見た。
まさか、おむつ替えが必要なはずがない。そう思いながら赤ちゃんをおむつ交換台に寝かせ、ロンパースを開いた。
おむつを外した瞬間、強烈な光景と臭いが彼女を襲い、思わず顔を背けた。
オーケー! 彼の言う通りだった!
どうして気づかなかったの!?
彼女は自分自身に問いかけながら、交換台に用意されていた新しいおむつを手に取った。
楽勝よ。
こんなの朝飯前のはず。
全然楽勝じゃなかった! それでも彼女はなんとかやり遂げた。おむつを外し、おしりふきを使い、ベビーパウダーをはたいて、新しいおむつをつける。
それが彼女のやったことだった。
しばらくして、彼女が赤ちゃんを連れて階下へ戻ると、リビングルームでケイン氏が待っていた。彼は仕事着のままソファに座り、携帯電話を手にしていた。
その時、グレースが入ってきて、ロリの方へ駆け寄った。
「あらあら! 頭を支えて! いつだって頭を支えてあげなきゃダメよ」
グレースはそう言うと、ロリから赤ちゃんを受け取り、リビングにあるバシネットに寝かせた。
ロリは頬を赤らめてケイン氏の方を向いた。
「座ってくれ、ロリ」
彼に言われて、ロリは彼が初めて自分を下の名前で呼んだことに気づいた。
「渡した契約書にはサインしたかな?」
と彼が尋ね、彼女は頷いた。
「はい、しました。上に置いてあります」
すっかり忘れていたが、契約書はまだスーツケースの中だった。
「取ってきましょうか?」
彼女が尋ねると、ケイン氏は首を横に振った。
「いや、必要ない。後でいいよ」
「言った通り、基本的なルールを確認しておきたい」
ロリは頷いた。
「契約期間中、君には住み込みのナニーとして働いてもらう。月に最低10日間の有給休暇を好きな時に取る権利がある」
「契約書にも書いてあるはずだが、念のため言っておく」
ロリは頷いた。確かに契約書にはそうあった。だが、休暇を取るつもりはあまりなかった。彼女には他に頼れる場所もなければ、休日を一緒に過ごす家族も友人もいなかったからだ。
「私の許可なくエミリアを家の外に連れ出すことは禁止だ」
ロリは頷いたが、ふと疑問が浮かんだ。
「病気になったらどうするんですか?」
彼女が尋ねると、彼は肩をすくめた。
「まず私に電話で報告し、許可を得てから連れて行くこと」
ロリは頷いた。
「来客は禁止だ。友人、家族、あるいは恋人であっても、連れ込むことは許されない。禁止事項だ」
ロリは再び頷いた。
「問題ありません」
彼女は小さく呟いた。
ガブリエルにはその言葉が聞こえていたが、あえて何もコメントしなかった。
「この家には立ち入り禁止の部屋がいくつかある。鍵のかかっているドアは決して開けようとしないこと」
奇妙だわ。どういうことかしら? 彼女は自問したが、口には出さなかった。
「それから、森には入らないように。野生動物が出るとスタッフから報告を受けている」
ロリは頷いた。そのルールを守るのは難しくないだろう。少なくとも、これからの忙しいスケジュールを考えれば、森に行く余裕などあるはずがない。
「他には何かありますか、ケインさん?」
彼女が尋ねると、彼は肩をすくめた。
「いや、これくらいだろう。もし何か必要なものがあって私が不在の場合は、グレースに頼むといい」
そう言うと彼は立ち上がり、ロリとグレース、そして赤ちゃんを残してリビングを出て行った。
