第六十九章

「あなたのお母さんを知っていたわ……」

「何ですって?」

ロリはそう尋ねながら、ゆっくりと立ち上がった。

「嘘よ」

彼女が即座に否定すると、アストラは静かに頷いた。

「もう何年も前のことだけど、今でも覚えているわ……」

「何を覚えているの?」

ロリが問い詰めると、アストラは肩をすくめた。

「妊娠して逃亡中のネフィリムのことよ。お腹の子の父親と何かトラブルを抱えていたみたいで……彼女は誰も彼もを避けていたわ。私たち同族さえもね」

「どうして? 母さんが何をしたっていうの?!」

ロリは椅子の端を強く握りしめながら身を乗り出した。アストラは彼女にたしなめるような視線を送った。

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