第171章

エルサ

ムーンライト不動産の本社は、朝の光を浴びて銀色のモノリスのように輝いていた。建物の建築様式は、月影(ムーン・シャドウ)一族特有のスタイル――黒曜(ブラック・オブシディアン)一族が好む角張った無骨な建材とは対照的な、優雅な曲線と反射する建材が特徴だ。

受付で人事部へ行くよう指示され、午前中いっぱいを契約書への署名と書類作成に費やした。果てしなく続く署名に、手が痙攣しそうになる。三年間の雇用契約書には一瞬ためらいが生まれた。不安げに下唇を噛みながら、点線の上でペンをさまよわせる。だが、契約条件は公正で、報酬パッケージはジョセフが最初に提示したものよりもさらに良かった。

「ムーンライト...

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