チャプター 206

エルサ

ドレイクはホテルの廊下を、私を抱きかかえて進んでいた。彼の胸にぐったりと体を預ける私。耳に届く彼の心臓の規則正しい鼓動だけが、私を現実につなぎとめていた。筋肉は濡れた砂のようで、彼から離れたいという本能に反して、そんな力はひとかけらも残っていなかった。彼が一歩進むたびに頭がガンガンと痛み、さっきまで耐えてきた地獄を容赦なく思い出させる。

「降ろして」自分の部屋が近づくと、私はどうにかそう囁いた。声はかすれている。震える手で、力なく彼の胸を押した。「自分の部屋くらい、自分で歩けるわ」

ドレイクは私を見下ろした。その金色の瞳は、薄暗い廊下の明かりの中では感情が読めない。「エルサ、お前...

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