第127章

エレナ視点

意識はゆっくりと浮上してきた。最初に感じたのは匂い――心地よくもあり、同時に不安を掻き立てる、馴染みのある香り。リチャードの香りだった。

重い瞼をこじ開ける。薄いカーテン越しに月明かりが差し込み、見慣れない、けれどどこか知っているような空間を照らし出していた。私が今横たわっているのは、巨大なキングサイズのベッド。視線を移すと、少しだけ開いた大きなウォークインクローゼットの扉から、ずらりと並んだ仕立ての良いスーツが見えた。

嘘でしょ。ここはリチャードの寝室だ。

心臓が狂ったようなリズムを刻み始める。一体どうして私がここに?最後に覚えているのは、リチャードに助けられたこと。でも...

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