第173章

リチャード視点

車は犬舎の前で止まった。

俺は彼女を車から引きずり出した。指が食い込むほど強く、その腕を掴む。彼女の香り――忌々しいほど馴染みのあるその香りが、俺の思考を鈍らせる。

「こいつを繋いでおく鎖をよこせ!」俺は飼育員に吠えた。

エレナが目を見開いた。「リチャード、正気なの? 私は犬じゃないのよ! どうして私を閉じ込めるの?」彼女は俺の腕の中で必死にもがいた。

俺は彼女の手首を握る力を強め、互いの顔が数センチしか離れない距離まで身を乗り出した。

「その通り。お前は犬じゃない――犬の餌だ」俺は唸るように言った。「エレナ、これが最後の警告だ。これ以上面倒を起こし続けるなら、約束...

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