チャプター 87

リチャード視点

エレベーターの中で、壁越しに彼らの歓声が聞こえた――紛れもない幸福の音だ。俺は目を閉じ、研ぎ澄まされた感覚でそのすべてを受け止めた。子供たちの混ざり合った匂い、エレナのアパートの温かい雰囲気、そして彼女の手料理の後味まで。

『家族』。

その言葉が不意に脳裏に浮かんだ。俺がたった今体験したのは、まさに家族だった――騒がしく、複雑で、けれど紛れもなくリアルなもの。ハイランド・エステートの冷たさとは似ても似つかない。

数年ぶりに、俺は自分が過ちを犯していたのではないかと考えた。キャシーをここに残すという決断ではない――それは正しいと感じている。だが、それ以前のすべてのことにつ...

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