第398話

エラ

「やって良かったわ」と私はその日の午後遅く、シンクレアが車を宮殿の正面玄関に回してきたときに言った。「あの家を見知らぬ人に引き渡すなんて耐えられなかったわ。あそこには思い出がたくさんあるから」

「同感だ」とシンクレアは言い、正面に車を停めた。それは…なんだか、未来の国王が宮殿、つまり新しい家に初めて入るには、あまりにも気軽すぎる感じがした。

「この場所に車庫みたいなものはないの?」と私は小声で言いながら、後部座席の小さなレイフを確認した。彼は幸せそうに自分の小さなベビーパーカーの袖を噛みながら、チャイルドシートに取り付けられた鏡に映る自分自身をじっと見つめていた。

「あると…思う...

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