第4章

栞奈視点

ドアを閉めようとした、まさにその時。廊下で、さらに大きな騒ぎが持ち上がった。

「栞奈! 今すぐこのドアを開けなさい!」

母の怒声が、廊下中に響き渡る。

「結婚式を台無しにしておいて、よくもまあ家でのうのうと隠れていられるわね!」

「姉さん! 結婚しないなら俺の仕事はどうなるんだよ!」仁助も叫んでいた。「哲也さんが仕事の世話をしてくれるって約束したんだぞ! 責任取ってくれよ!」

頭が、ガンガンした。近所の人たちがドアの隙間から覗き見を始め、中にはドアを開けてこの騒動を見物する人までいる。この状況では、二人を中に入れるしかなかった。さもなければ、一日中ここで騒ぎ立てるだろう。

ドアを開けると、母と仁助は床に散らばったガラスの破片や花びらなど一切お構いなしに、勢いよく部屋に乗り込んできた。

「なんてことをしてくれたの!」

部屋に足を踏み入れた瞬間、母が私を責め立てた。

「哲也さんはあんなにいい人だったのに、繋ぎとめておくこともできなかったなんて! あんた、一体どうなってるのよ?」

耳を疑った。

「お母さん、哲也さんは私を裏切ったのよ! 他の女の人との間に子供がいるの!」

「だから何?」母は気にも留めない様子で手を振った。「男なんてみんなそんなものよ。こんな大ごとにするんじゃなくて、彼を繋ぎとめる方法を見つけるべきだったのよ!」

仁助が、横から口を挟んだ。

「その通りだよ! 姉さん、こんなメチャクチャにしちゃって、哲也さんがどうやって俺を助けてくれるって言うんだ? もう銀行の仕事を紹介してくれるって約束してたのに!」

「仕事?」私は仁助を見つめた。「本気で哲也さんがあなたを助けてくれると思ってたの?」

「当たり前だろ?」仁助は当然だとばかりに言った。「俺は義理の弟になるんだぞ! 家族なんだから!」

その瞬間、理解してしまった。

「じゃあ、二人が私の結婚に賛成したのは、愛のためじゃなくて、彼から何かを得られるからだったの?」

母と仁助は顔を見合わせ、それから母が苛立ったように言った。

「栞奈、いつまでも甘いこと言ってるんじゃないの。結婚なんて、いつも相互利益で成り立ってるのよ。おとぎ話みたいなロマンスだとでも思ってたわけ?」

『相互利益』

またその言葉だ。二人の目には、私はただの道具、目的を達成するための手段でしかなかったのだ。

「最悪だよ、このざまは何なんだ」仁助が文句を言い始めた。「結婚式をぶち壊したせいで、俺の就職のチャンスも消えちまった! 姉さん、俺の損害を補償してくれよ!」

「補償?」頭がおかしくなりそうだった。「私の老後のための貯金を盗んでおいて、今度は私があなたに補償しろって言うの?」

「あのお金は家族のために使うものだったのよ!」母は、正義の味方でもあるかのように言った。「結婚を台無しにしたんだから、あんたはもっと家族のために尽くすべきなの!」

仁助は「名案」を思いついたとでもいうように、目を輝かせた。

「そうだ! 姉さん、もう結婚しないんだから、あのお金もいらないだろ。俺が買った新車のローンがまだ残ってるんだ。その返済を手伝ってくれよ」

私は、彼を凝視した。

「何言ってるの?」

「姉さんのお金で買った車、まだ六百万円のローンが残ってるって言ってるんだよ」仁助は平然と言った。「どうせその金は使わないんだから、家族への貢献だと思ってくれ」

『頭金に使っただけじゃない。もっと高価な車のために、ローンまで組んでいたんだ』

「仁助!」私の声は、ひび割れた。「あなたたちが私の貯金を全部使い果たしたのよ! 一銭も残ってないの!」

「盗んだ? 何言ってるの?」母が噛みついた。「あれはあんたが家族に返すべきお金だったのよ! このまたとないチャンスを台無しにしたんだから、もっと私たちに埋め合わせをするべきでしょ!」

仁助も頷いた。

「その通りだよ! 哲也さんとの繋がりは切れたし、俺の就職のチャンスもなくなった。姉さんが俺たちに埋め合わせしないで、誰がするんだよ?」

「それに」仁助は脅すように言った。「もし助けてくれないなら、俺が自分で銀行に行って哲也さんを探すからな。長い付き合いなんだ、まさか俺を無視したりしないだろ?」

この二人の強欲な顔を見ていると、心が沈んでいくのを感じた。

「仁助、哲也さんはもう私を裏切ったの。誰のことも助けたりしないわ」

「じゃあ、あんたがなんとかしなさいよ!」母がテーブルを叩いた。「これまで育ててやった恩も忘れて、今、家族が一番助けを必要としている時に、わがままを言うつもり?」

まるで崖っぷちに立たされて、今にも突き落とされそうな気分だった。

「お母さん、私は今日、みんなに裏切られたばかりなのよ。少し時間をくれない?」

「時間? 何のための時間だよ?」仁助は、鼻で笑った。「姉さん、もう二十六歳で、取り柄といえば看護師の仕事くらいだろ。あんたにどんな選択肢があるって言うんだ?」

母は、私を冷ややかに見つめた。

「栞奈、最後のチャンスをあげる。仁助の車のローン返済を手伝うか、さもなければ二度と私のことを『お母さん』と呼ばないでちょうだい!」

『二度と私のことをお母さんと呼ばないで』

その言葉で、私の堪忍袋の緒がついに切れた。この二人の強欲な顔を見ていると、ある残酷な真実が突然、胸に突き刺さった。私が人生で最も打ちのめされているこの瞬間にさえ、彼らが考えているのは、私からさらに何を搾り取れるかということだけなのだ。

「わかったわ」私は頷いた。声は、不気味なほど穏やかだった。「理解した」

母と仁助は、私が屈したと思い、満足げに微笑んだ。

「そうこなくっちゃな」仁助は私の肩を叩いた。「姉さん、家族は助け合うもんだろ。心配すんなよ、俺がビッグになったら、必ず恩返しするからさ」

『恩返し?』私は心の中で冷笑した。『この人たちが誰かに恩返しなんてするものか。彼らが知っているのは、奪って、奪って、さらに奪うことだけだ』

「もう帰ってくれる?」私は尋ねた。「休みたいの」

「ああ、いいけど、金のこと、早くなんとかしてくれよ」仁助は手を振った。「来週から返済が始まるんだ」

二人が去った後、私はドアを閉め、そのままズルズルとドアに背を預けて床に座り込んだ。

『彼らは私の優しさを弱さと勘違いし、私の犠牲を義務だと見なしていた』

この息の詰まる現実から逃れるため、私は病院での追加シフトを志願した。午後八時から午前二時までの夜勤だ。

忙しく働いている間も、今日起こったことすべてが頭の中で再生され続けた。一つ一つの屈辱、一つ一つの心ない言葉が、映画のワンシーンのように繰り返し流れる。

「栞奈? 大丈夫?」

同僚の美咲が、異変に気づいた。

「ひどい顔色よ」

「平気」私は無理に笑顔を作った。「ちょっと疲れてるだけ」

だが、自分が嘘をついていることはわかっていた。疲れているだけじゃない。怒りと、絶望と、すべての人への失望でいっぱいだった。

『どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの? 私が何をしたっていうの?』

午前二時、仕事を終えて休憩室に入ると、陳先生がまだ残って患者のファイルを整理していた。彼女は病院での数少ない友人の一人で、三十代の中国系の医師。いつも、鋭い有能さを漂わせている。

「栞奈?」彼女は私を見上げ、すぐに眉をひそめた。「なんてこと、トラックにでも轢かれたみたいな顔してるわよ。何があったの?」

疲れすぎていたのか、傷つきすぎていたのか――私はついに、こらえきれなくなった。涙が溢れ出し、今日起こったことすべてを彼女に話した。結婚式での紗矢の突然の登場、哲也の裏切り、そして家族の恥知らずな搾取。

すべてを聞き終えた陳先生の顔は、怒りで青ざめていた。

「なんてこと! その人たち、まるで吸血鬼じゃない!」

彼女は立ち上がり、部屋の中を歩き回った。

「栞奈、あなたは利用されてるのよ! あの人たちはあなたをATMか、ただの奴隷みたいに扱ってる!」

「でも、家族なの……」私は、声を詰まらせた。

「家族?」陳先生は、冷たく笑った。「本当の家族は、どん底にいる時に骨の髄までしゃぶり尽くそうとはしないわ! 栞奈、もう反撃する時よ!」

彼女は私の隣に座り、口調は優しく、しかし断固としたものになった。

「私も似たような経験をしたことがあるの。両親が私の人生をコントロールしようとして、私の成功を自分たちの自慢の種にした。でも私はノーと言うことを学んだし、自分を守ることを学んだの」

「でも、どうすればいいの?」私は、途方に暮れて尋ねた。

「反撃するのよ」陳先生の目に、冷たい光が宿った。「優しいことは、弱いことじゃない。もしあなたが反撃しなければ、彼らはあなたを完全に搾り尽くすまで、傷つけ続けるわ」

『陳先生の言葉が、心の中で響き渡った。反撃する……その言葉に、心臓が速く脈打った。私はいつも人に合わせて、いつも妥協してきた。それが調和をもたらすと信じていたから。でも、その結果得られたものは何だった? さらなる要求と、より深い傷だけだ』

『これまでの理不尽な仕打ちの一つ一つを思い出した。母が、まるで私の義務であるかのように家計を背負わせたこと。弟が、私の助けを生まれながらの権利のように扱ったこと。そして哲也……彼らは皆、私の優しさを弱さと勘違いしていた』

『胸の中の炎が、ますます熱く燃え上がった。どうして私が耐え続けなければならない? 一度でいい、自分のために反撃してはいけないのか?』

『もしかしたら……本当に、彼らに報いを受けさせる時が来たのかもしれない。私がもう、彼らが好き勝手にできる栞奈ではないことを示す時。私をいじめることには、相応の代償が伴うことを理解させる時。そうだ、彼らがしたことの報いを、必ず受けさせてやる!』

前のチャプター
次のチャプター