第141章

 高橋久弥は頭の中で、秋山棠花が会社に到着する時間を必死に計算していた。藤原光弘はその内心など知る由もなく、ただ鷹揚に頷いた。

「ええ、ええ、本当に急ぎでして!」

 グズグズしていたら、奥様と鉢合わせしてしまう。

 そうなれば、逃げるに逃げられない。

 恋人のために冷や汗を流す部下を見て、藤原光弘は苦笑交じりに首を振った。

 自分は失敗したが、側近の恋路は順調らしい。

 こんな時間まで会社に縛り付けていては、ブラック企業の社長と言われても仕方あるまい。部下に恋愛する時間すら与えないなど、あってはならないことだ。

「行け。待たせるなよ。吉報があれば教えてくれ」

 長年の腹心だ。...

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