第211章

水原春の心臓が早鐘を打ち、頬が熱を帯びる。彼女は今すぐ目の前の男に飛びつきたいという衝動を、必死に抑え込んだ。

 恥じらうような猫撫で声で囁く。

「まさか……私はただ、春さんという呼び方はあまりに普通すぎて、誰でもそう呼ぶから……。貴方だけは、特別であってほしいと思っただけです」

「特別?」

 藤原光弘は整った眉を軽く、挑発的に持ち上げた。

「俺は他の連中と何が違うというんだ? なぜ俺だけが特別でなければならない?」

 彼はわざと、意味深で艶めいた響きを含ませて言った。

 水原春の目には、藤原光弘という雲の上の支配者が、わざわざ身を屈めて彼女に関係を求めているように映っていた。...

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