第256章

 秋山棠花が背を向けたその瞬間、藤原颯は胸の内に渦巻く激情と渇望を、もはや抑えきれなくなっていた。

 車椅子の肘掛けを、両手で強く握りしめる。

 確かに、機に乗じて彼女の手を握ったのは故意だった。だが、まさか彼女が無防備に身を寄せてくるとは思ってもみなかった……。

 あと少し。本当にあと少しで、その唇を奪える距離だった。

 そうだ、俺は秋山棠花が好きだ。

 ずっと昔から、彼女を深く愛している。

 彼女がいたからこそ、俺の世界に光が射し、死のような静寂から救われたのだ。

 俺に何の打算もなく善意と愛情を向け、言葉の一つひとつに耳を傾け、応えてくれるのは彼女だけだった。

 俺にと...

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