第275章

「俺?」

 白羽の矢が立った男は呆気にとられ、緊張した面持ちで立ち上がった。

 水原春はハイヒールの音を響かせながら、ゆっくりと彼に歩み寄る。男の蝶ネクタイに指をかけ、軽く引っ張りながら、潤んだ瞳で見上げた。

「少しトラブルに巻き込まれてしまって……助けていただけないかしら?」

 その声は甘く、どこか庇護欲をそそる響きを帯びている。普通の男なら、彼女が本当に助けを求めているのか、それとも誘惑しているのか、区別などつかないだろう。

 男は生唾を飲み込み、ただ呆然と頷くしかなかった。

「……いい、ですよ」

「ふふ、じゃあ来て」

 彼女は艶かしく指で手招きすると、周囲の視線など意に...

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