第276章

 男の下腹が熱く疼く。沸き立つ情欲を理性でどうにかねじ伏せ、彼はただ彼女の唇を貪った。この瞬間だけが、彼が自身の本心をさらけ出せる唯一の時だった。

「秋山棠花、俺をその気にさせたのはお前だ。もう二度と手放すつもりはないぞ」

 二人の唇が離れがたく絡み合っていたその時、無粋な着信音が静寂を切り裂いた。その音は、藤原光弘の意識を現実へと引き戻した。

 身を起こそうとした瞬間、秋山棠花が名残惜しげに彼にしがみつく。

 眉を寄せ、まるで彼がどこかへ消えてしまうのを恐れるかのように。

 彼は彼女の額に自身の額を押し当て、荒い息を整えながら安撫の口づけを落とした。

「今はまだ駄目だ。お前と、...

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