第286章

 日向琴葉との通話を切るや否や、水原春は手早くあの馴染みの番号を呼び出した。一つ大きく深呼吸し、声のトーンを明るく整え、満面の笑みを顔に貼り付けてから発信ボタンを押す。

 十回目のコール音でようやく電話が繋がった。聞こえてきたのは、相変わらずボイスチェンジャーを通した無機質な声だ。

 だが、その奥に潜む感情は極めて危険なものだった。低く、重く、腹の底に響くような声。

「水原春、いい度胸だな。このタイミングで俺にかけてくるとは。自分がバレるとは思わないのか?」

 水原春は自分の立場が弱いことを悟り、即座に下手に出た。逆らうなんてとんでもない、媚びるに限る。

「そんな、会いたかっただけ...

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