第289章

 佐藤芳子はドアに耳を押し当て、しばらくの間、神経を研ぎ澄ませていた。外からの物音が消えたのを確信すると、恐る恐るノブに手をかけ、回してみる。

 カチャリ、と乾いた音が響いた。

 なんと、鍵が開いている。

 きっとさっきの二人は、どうせ安田家の人間が彼女を殺すだろうと思い込み、見張りを放棄したに違いない。その油断が、彼女に千載一遇の好機を与えたのだ。

 佐藤芳子は、心臓が口から飛び出しそうなほどの動悸を感じていた。

 安田家の権力は、彼女ごときが太刀打ちできるものではない。ましてや安田玲奈の兄たちは、どいつもこいつも血も涙もない冷酷な人間ばかりだ。

 今すぐ逃げ出さなければ、待っ...

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