第292章

「兄貴、そう焦ることはないさ。奴らの身柄はこっちにあるんだ、あの時の真相を吐かせるなんて造作もないだろう」

 安田悠馬は電話越しに、宥めるような口調で言った。

 だが、ふとある考えが脳裏をよぎる。

 佐藤芳子と秋山宏章——あの二人は互いに牽制し合い、罪をなすりつけ合っている。

 もし秋山宏章に、佐藤芳子のあの言葉を直接聞かせたら……一体どんな反応を見せるだろうか。

「ああ、分かった。そっちは頼んだぞ。何か掴め次第、すぐに連絡してくれ」

「了解だ、兄貴」

 二人が同時に通話を切ると、安田延司は振り返り、失意の底にいるような表情で佇む秋山棠花の姿を認めた。

 彼は歩み寄り、彼女の...

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