第297章

 秋山棠花が階下へ降りていくと、藤原光弘が黒のロングコートに身を包み、車に寄りかかっているのが遠目に見えた。手には煙草もなく、ただ静かに地面を見つめている。

 時折、二階を見上げる視線。

 凍えるような寒空の下、あそこで立ち尽くしているなんて、さすがの秋山棠花も少しばかり気の毒に思った。もっとも、自業自得ではあるが。

 田中に頼んでもう一度声をかけさせようかとも考えたが、藤原光弘のあの偏屈な性格だ。何度呼んだところで、意地でも入っては来ないだろう。

 彼女自身が出向くしかなさそうだ。

 秋山棠花はカシミヤのショールをきつく羽織り直すと、ふかふかのスリッパを履いて玄関へと向かった。

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