第302章

一方、その頃。

車内。

怪我の療養から復帰したばかりの高橋久弥は運転席に座り、秋山柔子と藤原光弘が後部座席に乗り込むのを見届けると、心得た様子でパーティションを上げた。

それを見た柔子は、頬を朱に染めた。光弘がこれから自分に何かするつもりで、他人に見られたくないのだと勘違いしたのだ。

だが、いつまで待っても男は動こうとしない。堪り兼ねて、彼女の方から口を開いた。

「光弘、どうしたの? もしかして怒ってる?」

男の顔色が優れないのを見て取ると、柔子はその袖を引っ張り、甘えた声で寄り添った。

「水原春の身分を使って騙したことは謝るわ。でも、仕方なかったのよ。秋山棠花があなたと親密す...

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