第332章

 音楽が流れ出すと、秋山柔子は藤原光弘の手を取り、自らの細い腰へと導いた。そのまま彼女は、彼の胸に身を預けるようにして寄り添う。

 ゆったりとしたステップ、回転。藤原光弘の手つきは明らかに上の空で、その鋭い視線はただ一点、あの小さな扉に釘付けだった。

 一曲が終わる頃には、秋山柔子はその男の魅力にどっぷりと溺れていた。

 つい先ほど、彼女はまた思い出していたのだ。「水原春」という偽名を使い、藤原光弘のそばで過ごしたあの日々を。

 あの頃の彼は、あれほどまでに優しく、温かかった。一介のインターンに過ぎない彼女が社長室を自由に出入りすることを許し、彼女を見る瞳はいつも甘い溺愛の色で満ちて...

ログインして続きを読む