第419章

 自分でも信じられないことだった。彼はあの安田延司だ。これまでどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたことか。

 それなのに、小娘一人を前にしてこれほどペースを乱されるとは。

 彼は深く息を吸い込み、口を開きかけては閉ざし、しばらくしてようやく自分の声を取り戻した。

「言っておくが……君はまだ若い。今は仕事を優先すべきだ。恋愛ごとは、後回しでもいいだろう」

 結局、安田延司は「好きだ」の一言を告げることができなかった。

 考えた末に出た言葉は、柏木浬のような若造に現を抜かすなという、遠回しな「警告」に過ぎなかった。

 彼は佐藤玲という人間をよく知っている。彼女は常に自分を大切にし、浮つ...

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