第536章

 もしあの時、秋山棠花と過ごした一分一秒を大切にしていたなら、俺たちは離婚などせずに済んだのだろうか。

 そんなことばかりが、頭をよぎる。

 これほど近く、目の前に彼女がいるというのに、決して結ばれることはない。

 今この瞬間、彼女の隣に並び立つことができれば、どれほど幸せだろう。

 言葉などいらない。ただ傍にいられるだけでいい。

 だが今の俺には、遠くから彼女を見つめることしか許されない。近づくことさえ、今の俺には手の届かない贅沢なのだ。

 俺が姿を見せれば、彼女は不快に思うかもしれない。これ以上嫌われたくない。逃げられたくないという恐怖が、足をすくませる。

 祖父の傍らに座...

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