第616章

「カタン!」

 安田時也の手から不意にグラスが滑り落ち、テーブルにぶつかって鋭い音を立てた。その顔色は一瞬にして強張り、緊張の色が浮かび上がる。

 次の瞬間、彼は猛然と藤原光弘の胸倉を掴み上げていた。

「今、なんと言った。彼女に何をした。北野薫は今どこにいる!」

 今の自分がどれほど取り乱しているか、時也自身すら気づいていないだろう。

 光弘は彼の腕を静かに払い除け、諭すように口を開いた。

「時也おじさん、向こうからわざわざ家の前まで訪ねてきたんですよ。若輩者の俺に何ができるって言うんですか。当然、安全な場所へ丁寧にご案内しましたよ。若い女性が深夜に外をうろつくなんて、危ないじゃ...

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