第77章

彼女は身体の不調を無理やり抑えつけ、ここを離れようとしたその時、ひやりとした感覚が頬を撫でた。

身体の反応は、頭脳よりも遥かに速い。秋山棠花はびくりと震えた。

視線を上げると、藤原光弘の冷ややかな光を宿した黒い瞳と、彼女の顎を掴むその掌が目に入る。

「よく見ろ。お前の前に立っているのが誰なのかを」

「はっきり見えてるわよ。藤原光弘、邪魔しないで。どいて、帰るから」

今すぐここを離れなければ。

身体の調子が、明らかにおかしい。

これ以上、ここにいてはいけない。

彼女は藤原光弘の手を振り払おうとしたが、自分の力が驚くほど弱々しいことに気づく。ただ彼の服を掴むだけで、...

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