第772章

 佐藤玲の疑念の眼差しを受け止め、安田延司は静かに答えた。

「いや、俺は何もしていない」

 彼女がそれほどまでに待ち望んでいる子供なのだ。彼が本当にそんな真似をするはずがなかった。

 それに、彼自身だって彼女との子供を望んでいないわけではない。

 子供が嫌いなわけではない。ただ、新婚早々の時期に彼女へ負担をかけたくなかっただけで——

「じゃあ、なんでこんなに経っても兆候がないの? いっそ、病院でどこか悪いところがないか検査してもらおうかな……」

 何しろ、この数年は仕事にかまけきりだった。去年は映画の撮影に参加したせいで毎日のように徹夜が続き、生活リズムも完全に昼夜逆転していたの...

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