第808章

この期に及んでもなお、北野薫が心配しているのは自分のことだと知り、安田時也の先ほどまでひどく乱れていた心は嘘のように凪いでいった。

思わず、低く笑い声を漏らしてしまうほどに。

「奥さんは俺のことを心配してくれていたんだな。安心してくれ、君の旦那はそこまで無能じゃない。会社は今も順調だし、何の問題もないよ」

「他のこともすべて想定内だ。余計な心配はしなくていい、君はただ、安全な場所で無事に俺の帰りを待っていてくれればそれでいいんだ」

「奥さんって……変な呼び方しないでよ……」

安田時也がその後に続けた言葉は、もはや北野薫の耳には届いていなかった。

『奥さん』というたった一言だけで、...

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