第176章

「仕事の話なら、立花グループの担当者にどうぞ。私はもう退職しました。私用の話だとしても……」

辻本雨妃はそこで言葉を切り、ふっと目を上げて彼を見た。

「私たちの間に、話すような私用なんてありません」

浅井景辰の視線が、雨妃の顔に長く留まる。しばらくしてようやく口を開いたが、声は少し掠れていた。

「……そこまでしなきゃいけないのか。まともに一言も、俺と話してくれないのか」

雨妃は静かに見返すだけで、感情の起伏は薄い。

「じゃあ、どうしろっていうの?」

浅井景辰は、底の見えない目で彼女を見つめた。

――立花グループを辞めた。

なぜだ。

あそこで、うまくやっていたはずなのに。

...

ログインして続きを読む