第29章 変数

酒で丸く収まると思っていた。ところが、辻本雨妃がグラスを置いたその瞬間――明らかに飲みすぎた様子の取引先が、ふらりと距離を詰めてくる。右手が当たり前みたいに伸び、雨妃の肩へ回ろうとした。

「辻本嬢みたいに才能もあって綺麗な女性、そうそういませんよ。立花社長があなたにご執心なのも分かるな」

言外の含みが、生々しいほど露骨だった。

雨妃は眉を寄せて一歩引く。口元に貼りつけていた笑みが、すっと薄れる。

「木下社長、過分なお言葉です。私は自分の仕事をしているだけです」

木下社長は喉を鳴らして笑った。けれど視線はむしろ大胆になり、遠慮なく雨妃の身体をなぞる。

「辻本嬢の「仕事」ってのは、研...

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