第80章 後で話そう

「雨妃はずっと俺の婚約者だ。公表してなかっただけでな。しかも雨妃は、もう俺の子まで産んでる」

男同士の視線がぶつかり、空気が一気に張り詰めた。火花が散りそうなほど、険悪な沈黙。

辻本雨妃は立花時安の背後に立ったまま、ふと――ひとつの策を思いつく。

彼女は手を伸ばし、わざと親しげに立花時安の腕へ絡めた。

時安の身体がわずかに強張る。だがすぐに力が抜け、彼は横目で雨妃を見た。眼差しには、柔らかな温度が宿っている。

雨妃は小さく笑い返し、それから浅井景辰へ視線を移した。声は落ち着いているのに、どこか意図的に響く。

「スイスに来た最初の一年、時安は本当に私によくしてくれた。一番苦しかった...

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