第86章 透は私がいればいい

立花奥さんはそう言いながら、もう一度辻本雨妃へ視線を向けた。表情はわずかに和らいだものの、声の芯は揺らがない。

「雨妃、きっと何かの勘違いよ」

辻本雨妃は目を上げ、落ち着いた声で返す。

「透は嘘をつきません」

立花奥さんの顔色がふっと変わり、不快そうに眉を寄せた。

「透が嘘をついてるなんて言ってないわ。ただ、誤解があるはずって言ってるの。零が人を階段から突き落とすなんて、あり得ないでしょう」

そう言って彼女は松本智へ振り向く。

「松本補佐。零がどこにいるか探して。連れてきて、透と突き合わせなさい」

「承知しました」

松本智は短く応じると、踵を返して足早にその場を離れた。

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