第4章
医療個室の照明は展示室よりずっと柔らかく、壁の通気口からは淡い桜の香りが漂ってくる。これは、虫族が人間の感情を落ち着かせるために用いる手段だ。
私はベッドに横たわり、天井を見つめてぼんやりしていた。
足首の傷がじんわりと痛む。それは富士山が崩落した時に負った傷で、虫族はずっと治療を続けているが、完全に治すことを急いでいるようには見えなかった。
おそらく、彼らにとってこの傷は私の身体の「特色」の一部なのだろう。山田櫻子の黒いストレートのロングヘアや、藤原勇の強靭な体格と同じように、展示価値の一部として。
部屋の扉が滑るように開く音で、私の思考は中断された。横を向くと、入ってき...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
11. 第11章
12. 第12章
13. 第13章
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