第16章

白川詩帆の指先が、ひやりとした窓ガラスにそっと触れる。その視線は、黒いセダンが角を曲がって消えていくのを追いかけていた。

エンジンの轟音が遠ざかるにつれ、彼女は長く息を吐き出した。だが、胸のうちはずっしりと重い。

「何を見ているんだ?」

不意に、温かな吐息が耳元をかすめ、微かなシダーウッドの香りがした。

白川詩帆は無意識に身を引いたが、その腰は一本の腕にしっかりと抱き寄せられた。

結城時也の顎が、そっと彼女の肩のくぼみに乗せられる。彼の胸の震えが薄い衣服越しに伝わってきて、張り詰めていた神経が次第に緩んでいくのを感じた。

「なんでもないわ」

彼女は振り返って彼を抱きしめ返し、アイ...

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