第36章

夜明け前の午前五時半、キッチンの明かりが一番に灯った。

藤堂詩織はエプロンを身に着け、蒸し器の前に立つ。蝉の羽のように薄い生地をつまみ、調味した肉餡を包み込むと、指先の熱で生地がわずかに皺を寄せた。

これは結城沙耶と結城和が大好きな小籠包だ。以前はいつも田中さんが作っていたが、離婚を決意してからは、何か自分の手でできることを増やしたいと思っていた。

最後の一個を蒸籠に入れ、藤堂詩織は牛乳を温めるために振り返る。ガラスのコップが軽く触れ合う音の中、階段から微かな足音が聞こえてきた。

「ママ、おはよう!」

結城和が恐竜柄のパジャマ姿でキッチンに駆け込んできて、鼻先を彼女の服の裾に擦り付け...

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