第44章

「忙しいの?」

結城沙耶の声が数段高くなり、侮辱されたかのような怒気を帯びた。「またお仕事に行くの? 前はお仕事なんて行ってなかったのに、お仕事は私たちより大事なの?」

その言葉は鈍い刃物のように、ゆっくりと藤堂詩織の心を切り裂いていった。

「ええ」

藤堂詩織は、自分の声が氷のように冷たいのを聞いた。「お母さんにとって、お仕事はとても大事よ」

電話の向こうは数秒沈黙し、それから結城沙耶の泣き声混じりの訴えが聞こえてきた。「お母さんなんて、大嫌い!」

藤堂詩織は目を閉じ、深呼吸をして、そのまま通話終了ボタンを押した。

子供たちの電話を自分から切ったのは、これが初めてだった。心臓を形...

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