第45章

結城時也の声には、かすかな疲労の色が滲んでいた。「子供が病気なんだ、誰かがついていないと。何日か休みを取れないか?」

藤堂詩織は携帯を握る指に力を込めた。「数日後に大事な学術シンポジウムがあって、今はどうしても抜けられないんです」

電話の向こうでキーボードを打つ音が止んだ。

「今夜中にこのプロジェクト案をまとめないといけないんだ」

結城時也の声が少し和らぎ、どこか諦めたような響きを帯びる。「数日だけでいい。シンポジウムの方はどうにかならないか?」

藤堂詩織は目を閉じ、深く息を吸った。

今の結城時也の表情が目に浮かぶようだ。眉間に皺を寄せ、指でこめかみを押さえている、いかにも仕事一筋...

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