第54章

翌朝、藤堂詩織が会社に着いて最初にしたことは、退職願を書くことだった。そして、それを人事部に提出した。

「お姉様、結城グループほどの素晴らしい会社を辞めて、どちらへ栄転なさるのですか?」

白川詩帆がコーヒーカップを片手に、彼女のデスクの傍らまでやってきた。その声は大きすぎも小さすぎもせず、オフィスエリア全体に聞こえる絶妙な音量で、隠す気もないあからさまな嘲りが含まれていた。

藤堂詩織は彼女を無視し、俯いたまま自分の数少ない私物を片付け始めた。

相手にされないのを見て、白川詩帆は一層笑みを深め、さらに言葉を続けた。

「伺いましたわ、佐伯俊彰教授の会社ですって? 業界トップクラス...

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