第58章

晩餐会はまだ続いていた。

藤堂詩織はスマートフォンをしまい、グラスに残った氷の溶け水を飲み干した。

冷気が喉を滑り落ち、まとわりつくような息苦しさの最後の一片を洗い流していく。

彼女はハンドバッグを手に取ると、席を立った。

黒のパンツスーツのシルエットが、喧騒に満ちた人混みを鮮やかに切り裂き、振り返ることはなかった。

結城時也の視線は、その消えていく後ろ姿を追い、眉間にかすかな皺が寄った。

あまりにも潔く立ち去っていく。

彼の予想とは、少し違っていた。

白川詩帆の甘く艶っぽい声が、彼の注意を引き戻した。

「時也兄さん、李教授たちが今後の提携についてお話をしたいと……」

彼は...

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