第62章

藤堂詩織は結城時也を見つめた。知り合って十数年、夫婦として寝食を共にして七年になる男。

彼の顔には、ありありと苛立ちが浮かんでいる。

まるで彼女が何をしても、すべてが間違いだと言わんばかりに。

家にいるのは間違い。

働きに出るのは間違い。

そして今、沈黙していることさえも間違いなのだ。

彼女はふと、少し疲れたと感じた。

「結城時也」

その声は、ひどく穏やかだった。

「これで最後にするわ」

結城時也は眉をひそめた。

「何が最後だ?」

「結城家で食事をするのも、最後に。ここに座って、あなたたちのそんな話を聞くのも、最後に」

彼女は立ち上がり、傍らに置いていたコートとバッグ...

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