第63章

バタン、と乱暴にドアが閉められた。

閉ざされたドアを見つめる白川詩帆の口元の笑みは少し薄れたが、すぐにまた浮かべ直し、結城の母のカップに熱いお茶を注ぎ足した。

「お義母様、ご心配なさらないでください。時也さんには考えがあるはずですから」

車は旧家の敷地を出て、車の流れに合流した。

結城時也は片手でハンドルを握り、静かな眼差しで車窓の外に流れる夜景を眺める。母と白川詩帆の会話が、耳元で淡く反響していた。

「釣り合わない」という三文字が、ふわりと空気の中に落ちる。彼の唇の端がごくかすかに上がり、その表情からは何の感情も読み取れない。

彼は気だるげにネクタイを少し緩めた。その動作は落ち着...

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