第69章

その頃、藤堂詩織はすでに会社を後にしていた。

資金予算の問題は彼女にはどうすることもできず、交渉は彼女の得意分野ではなかった。しかし、プロジェクトが理想的すぎるといった理由で一蹴されるのは、彼女には受け入れがたいことだった。

秦野弥も燦星の件を耳にしており、電話で問い合わせているところを、偶然にも金田和風に聞かれてしまった。

かくして、秦野弥は「やむを得ず」藤堂詩織に電話をかけることになった。

「詩織ちゃん、先生がお会いしたいそうだ」

その言葉に、藤堂詩織は携帯を握る手にぐっと力を込めたが、長い間、返事をすることができなかった。

離婚を決意してから今日まで、彼女が最も会いたく、そし...

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