第86章

「どうしたの? まだ夏でもないのに、首を蚊にでも刺された?」

林美薇はぎくりとし、すぐさまバッグからコンパクトミラーを取り出して確認すると、思わず悪態をついた。「くそっ! あの野郎、犬みたいなんだから!」

そう言う間にも、彼女はコンシーラーを取り出して素早くその痕を隠していく。

藤堂詩織は笑いながら彼女を見た。「いつの間にそんな良いことが? しっかり隠しちゃって」

林美薇はどこか気まずそうに目を逸らした。「知ってる人よ」

一拍置いて、彼女は恥ずかしそうに付け加えた。

「林燁よ」

「ごほっ、ごほっ……」

その言葉を聞いて、藤堂詩織は口に含んだばかりのコーヒーを半分ほど吹き出しそう...

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