第50章

のしかかってきた身体は熱を帯び、ずしりと重い。抗いようのない重量が、容赦なく彼女を押さえつける。

水宮雪音が押し返そうとした瞬間、かすかな鉄錆の匂いがふいに鼻腔を刺した――血だ。

襟元から滲む血の匂いは濃くはない。けれど、はっきりと分かるほど鮮烈だった。

鞭の傷だ。

あの傷が、また悪さをしている。

この狂人、何をしてるの。もともと裂けやすい傷なのに。

胸の奥が、どん、と沈んだ。処置を後回しにした傷は、案の定、発熱を招いていた。

ほんとに最低。熱で失神するなら他で倒れればいいのに、よりによって私の上に倒れてくるなんて。

雪音は唇を噛み、汗で湿った男の肩に両手を当てて力いっぱい押...

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