第53章

笹谷幽々子は拳をぎゅっと握り締めた。口ぶりだけは相変わらずへりくだっているのに、表情はすでに歪みきっている。

『……ごめんなさい、翼。あなたが忙しいことを考えてなかったわ。今夜は本番じゃなくてリハーサルだし、無理しないで。どんなに忙しくても、ちゃんと休んでね。それで……身体の傷はどう?』

笹谷幽々子は柔らかな声で切り出し、いかにも江原翼の体調を気遣ってみせる。

『大したことない。気にするな。お前はお前の仕事をちゃんとやれ』

笹谷幽々子のショーは、江原の次の投資案件にも直結している。この場を用意したのも、江原の傘下にある新ブランドを表舞台に出すため――それだけだ。

事情を知らない人間...

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