第4章
神谷が見つめる先で、ベテラン刑事の顔色が、これまで見たこともないような土気色へと変わっていった。
「行くぞ」鈴木は椅子から立ち上がり、上着を手に取った。「霊安室だ」
二十分後、彼らの目の前で霊安室の重い扉が開かれた。
佐藤は解剖台の傍らに立っていた。電話越しの声から想像していた以上に、酷くやつれた顔をしている。「電話で済ませたかったんだがな」彼は言った。「自分の目で確かめてもらうしかない代物でね」
彼が一歩後ろへ下がる。天井の無影灯が解剖台を煌々と照らし出していた。
絵里の遺体を目の当たりにし、神谷の胃が激しく痙攣した。
それは到底、三十六歳の女性の姿には見えなかった。まるでアウシュビッツ収容所の記録写真のようだ。肋骨は一本一本数えられるほど浮き出ている。鎖骨は今にも皮膚を突き破りそうなほど鋭く突出し、骨盤は極端に陥没した腹部の上に異様なほど隆起していた。
佐藤はすでに外表検査を終えていた。両肩から恥骨にかけてY字切開が施されており、開かれた胸腔からは、ひどく萎縮した内臓が露出している――肝臓に至っては、通常の半分の大きさにまで縮んでいた。
鈴木は解剖台の前で立ち止まると、無言で煙草に火を点けた。
「こんな酷い仏さんは初めてだ」佐藤は言った。普段の専門家としての冷徹さは見る影もない。「死亡推定時刻は発見から二十四時間から四十八時間前だが、彼女はそれよりずっと前から、ゆっくりと死に向かっていたんだ」
彼は露出した胸腔を指差した。「内臓はどれも極度に萎縮している。だが、俺が本当にゾッとしたのはこれだ――」
佐藤は鉗子を使って肋骨を押し広げ、心臓を指し示した。
「ここを見てくれ。心膜に古い断裂の痕がある。縁はすでに瘢痕化している。生前、心臓に極度の負荷がかかっていた証拠だ。慢性的なパニック発作か、それとも……」彼は言葉を切った。「逃げ場のない、持続的な恐怖状態に置かれていたかだ」
佐藤が遺体をわずかに傾け、壊死した組織から骨が突き出ている背中側を露出させた。腐敗した皮膚を突き破って露出した脊椎は、まるでロープの結び目のような異様さを呈していた。
「この一年間、誰かが一度でも寝返りを打たせていれば、一度でも体を拭いてやっていれば、こんな状態にはならなかったはずだ」佐藤の声が微かに沈んだ。「彼女は事実上、あの姿勢のまま釘付けにされていたんだ。これを見てくれ――」
彼は鉗子を使い、皮膚の表面を覆い尽くす無数の小さな痕を指し示した。「咬み傷だ。トコジラミのな。一部は感染症を起こし、膿が出ている」
続いて彼がふくらはぎと足首へと視線を移すと、そこにはさらに目を覆うような惨状が広がっていた。傷口の縁は不規則に引き裂かれ、中には骨が露出するほど深く抉れているものもある。
「ネズミの咬み傷だ」佐藤は静かに言った。「しかも、生前に付けられたものだ。ここの腫れと赤みが見えるか? 免疫機能がまだ働いていた証拠だ。つまり、ネズミに肉を齧り取られていた時、彼女にはその激痛がわかっていたということだ」
神谷の脳裏に、居間で聞いた昭一の言葉が蘇った。『定期的に体を拭いてやっていたんです』
鈴木は煙草の煙を深く吸い込んだ。「続けてくれ」
「遺体をソファから引き剥がそうとした時だが」佐藤は正面に戻り、遺体を仰向けに直した。「臀部と太腿の皮膚が、ソファの表面と完全に癒着していた。自分の排泄物の上に座り続けていたせいで、皮膚が溶けてしまっていたんだ。遺体を損なわずに剥がすため、メスを使わざるを得なかった」
蛍光灯が発する無機質なジーという音だけを残し、部屋は静寂に包まれた。
佐藤はメスを下へと進め、腹腔を開きにかかった。胃袋が露出した途端、その手の動きが鈍り、やがて完全にぴたりと止まった。
神谷は、佐藤の両手が小刻みに震えているのを見逃さなかった。
「わざわざ来てもらった理由はこれだ」佐藤は鉗子を使って胃の内容物からペースト状の物質を摘み出し、金属製のトレイの上に置いた。
神谷は顔を近づけた。未消化の食物が出てくるものとばかり思っていたが――トレイの上にあったのは、灰白色の残骸や繊維質の塊、そして強烈な悪臭を放つ暗褐色の塊だけだった。
「それは、何ですか?」頭ではすでに理解していながらも、神谷はそう問わずにはいられなかった。
「ポリウレタンのクッション材に、羊毛繊維。あのソファの素材だ」佐藤は一拍置いた。「それに……糞便だ。検査の結果、これらの物質は少なくとも七十二時間は胃の中に留まっていたことがわかっている」
神谷の胃袋が激しく反転した。彼は解剖台から弾かれるように背を向けると、両手を壁に強く押し当て、込み上げてくる嘔吐感を必死に呑み込んだ。
「自分の排泄物を、食べていたんですか……?」神谷の声は、かろうじて聞き取れるほどの掠れ声だった。
「人間、本当に飢えきってしまうと」佐藤はゆっくりと口を開いた。「本能が肉体を支配する。目についたものすべてを口に押し込もうとするんだ。理性による選択じゃない――生き延びようとする、肉体の最後のあがきだ」
神谷は壁を凝視した。その光景が脳裏にこびりついて離れない。暗闇の中で丸まり、内臓を掻き毟るような飢えに苛まれながら、自分の下にあるソファへと手を伸ばし、少しずつむしり取っては口の中へと押し込んでいく絵里の姿が――。
「食い物が腐るほどあるあの豪邸で」鈴木は灰皿に煙草を揉み消した。「あの娘はソファを食うほど飢えさせられていた。自分の糞便を食らうほどにな」
佐藤はデスクから数枚の写真を取り出すと、シャーカステンの上に並べた。「現場検証の際、ソファの窪みの底から深い引っ掻き傷が見つかっている。ウレタン材は彼女の爪によってずたずたに引き裂かれていた――この傷の深さを見てくれ。彼女は残された力のすべてを振り絞ったんだ。だが、もがけばもがくほど、体は深く沈み込んでいった。最後には、腕を持ち上げる力すら尽き果ててしまったんだろう」
彼は、絵里の両足首をぐるりと囲む暗赤色の痕跡を指差した。
「擦過傷だ。だが、ロープで縛られた痕じゃない」佐藤はルーペ越しにその痕を観察した。「どちらかと言えば……足を踏ん張って、自力で這い上がろうとした時の痕跡に近い」
「だが、這い上がれなかった」鈴木は感情を交えずに言った。
「脚の筋肉が完全に萎縮しきっていたからな」佐藤は、太腿のたるみきった皮膚を示した。「通常の成人女性なら、太腿の筋肉は五センチから八センチほどの厚みがある。だが、彼女の筋肉は一センチにも満たなかった」
鈴木は押し黙ったまま、その痛々しい痕を見つめていた。
「もう一つある」佐藤は薬物検査報告書を手に取った。「血液検査の結果、高濃度の抗不安薬が検出された。血中濃度の分布にばらつきがあることから、断続的に無理やり飲まされていた可能性が高い。しかも、大人の男が丸一日昏睡するほどの異常な投与量だ」
鈴木が顔を上げた。「自力で立つことすらできない状態だったのに、どうやって薬を飲んだっていうんだ?」
「自分から飲んだわけじゃない」佐藤は静かに答えた。「誰かが無理やり喉の奥へ流し込んでいたんだ。誰かが、彼女の意識をコントロールしていたということだ」
神谷は背筋が粟立つ思いがした。もし絵里が、薬物によって何ヶ月も半昏睡状態に置かれていたのだとすれば、両親の介護を「拒絶」することなどできるはずがない――遠藤夫妻の証言は、根底から崩れ去ったのだ。
室内はしばし静まり返った。佐藤はゴム手袋を外し、シンクで手を洗い始めた。重苦しい沈黙の中、水音だけがやけに大きく響き渡る。
「爪の間からは、微量の皮膚組織も見つかった」彼は背を向けたまま言った。「DNA鑑定の結果、彼女自身のものではないことが判明している。不審な点はそれだけじゃない。手首や前腕、肩口に至るまで、似たような痕跡が残っていた」
「誰かが力ずくで押さえつけた痕か」鈴木が言った。
三人の男たちは、重い沈黙の中に立ち尽くした。
神谷はウレタンの破片と糞便の残骸が乗ったトレイを見つめながら、あの塵一つない完璧な家を思い返していた――ダイニングテーブルに並べられた優雅な食器類、居間に整然と積まれた雑誌、そして、抱き合って泣き崩れていた昭一と真紀子の姿を。
鈴木は出口へと歩き出したが、不意に足を止めて振り返った。「佐藤。彼女が最後に目を開けたのはいつだ?」
佐藤は長い間沈黙を守り、やがて重々しく口を開いた。「角膜の混濁具合から推測して……死の六時間から八時間前といったところだ。つまり、最期の瞬間、彼女にははっきりと意識があったということになる」
神谷はドアの枠を強く握りしめた。
つまり、絵里は最期の数時間、意識があったということだ。はっきりと。両親がほんの数メートル先の塵一つない居間にいる間、彼女は暗闇の中でたった一人だったのだ。
鈴木がドアを押し開けると、冷たい朝の空気が流れ込んできた。「行くぞ。遠藤夫妻には説明してもらうことがある」
神谷も彼に続いて外に出た。まだ日は昇っておらず、通りには人影もなかった。
しかし神谷にはわかっていた。自分たちがこれから開けようとしているのは、単なる家のドアではないということを。
絵里の爪の間に別の誰かの皮膚が残されていたということは、最期の瞬間に彼女が抵抗したということを意味しているからだ。
彼女は誰かに掴みかかったのだ。
そしてその人物は、ほんの少し離れた場所から、彼女がゆっくりと死んでいくのを見つめていたのだ。
