第3章
「おばあちゃん、逃げて! こっちに来ちゃダメ!」私はヒステリックに叫んだ。「あの人、ナイフを持ってる!」
だけど、おばあちゃんは怯まなかった。震える手で携帯電話を掲げる。「もう警察には通報したわ! あなた、今すぐその子を離しなさい!」
「警察だと?」蓮司は鼻で笑った。「俺が怖がると思ったか? そこまでお節介を焼くってんなら……」
彼はゆっくりとポケットから、きらりと光る折りたたみナイフを取り出した。
薄暗い街灯の下、その鋭い刃は冷たく、そして不気味に煌めき、周囲の空気を一瞬にして凍らせた。彼の瞳には、すでに迷いはなく、そのナイフがこれから果たす役割を、静かに見据えているかのようだった。
「やめて!」そのナイフを見て、私の心は完全に折れた。「おばあちゃん、お願いだから逃げて! お願い!」
「楓花、あなたを置いてはいけないわ」おばあちゃんは私をまっすぐ見つめ、それから蓮司に向かって吼えた。「この子を傷つけたいなら、まず私を殺してから行きなさい!」
「望み通りにしてやるよ、ババア!」蓮司は凶悪な笑みを浮かべ、ナイフを振り上げた。
時間が止まったかのようだった。八年前の悪夢が再現されるように、そのナイフがおばあちゃんの胸へと突き立てられるのを、私はなすすべもなく見つめていた。
「いやあああああッ!!!」私は、胸が張り裂けるような悲鳴を上げた。
おばあちゃんのラベンダー色のカーディガンが、一瞬にして鮮血に染まる。
「楓花……強く、生きるのよ……愛してる……」おばあちゃんは震える手を伸ばし、最後に一度だけ私の顔に触れようとした。
「おばあちゃん! くそ!どうして……どうしてまた同じなの!」私は次第に冷たくなっていくおばあちゃんの体を抱きしめ、苦痛に泣き叫んだ。
遠くでパトカーのサイレンが鳴り響く。蓮司はすでに逃げ去っていた。駆けつけた警官が状況を確認する。「お嬢さん、救急車はもう来ます、しっかり!」
でも、もうすべてが終わってしまったことはわかっていた。八年前と同じように、おばあちゃんの瞳から光はもう消えていた。
運命はあまりにも残酷だ。過去に戻っても、ルートを変えても、悲劇は繰り返されてしまった。
圧倒的な絶望と、全身を貫くような衝撃に、私の意識は急速に遠のいていく。視界は歪み、音は霞み、この世界から切り離されていくような感覚。もう何もかも終わりだと、そう諦めかけたその時、遠く、しかし確かに、あの聞き慣れた声が私の名を呼んだ。
その声は、一瞬だけ、私を現実に引き戻し、薄れゆく意識の淵に、微かな光を灯した。しかし、それも束の間。その光は、瞬く間に吸い込まれて消え失せ、すべてが、再び、深く、冷たい暗闇へと沈んでいった。
目が覚めると、私はまたあの冷たい居間にいた。監視装置は青い光を点滅させ、画面には静止した映像が映し出されている。
頬がまだ濡れていた――タイムトラベル中の涙なのか、それとも今また泣いていたのか、わからなかった。
一度目のタイムトラベルは……失敗に終わった。
「くそ!どうして? どうしてルートを変えたのにダメだったの?」私は頭を抱え、ソファの上で体を丸めた。さっき体験したことすべてが生々しい、蓮司は私の行動をすべて予測していたのだ。彼は私たちを監視していたんだ!
震える手で、もう一度画面のおばあちゃんの顔に触れる。だが、今度は何も起こらなかった。
私は必死に画面を叩いた。「どうして戻してくれないの? なんで? まだおばあちゃんを助けてないのに!」
涙で再び視界が滲む。私は残酷な真実に気づいた。ただ逃げるだけでは、問題は解決しない。
蓮司は偶然私に会ったんじゃない――すべて計画ずくだったのだ。彼は私の通学路も、おばあちゃんの行動スケジュールも知っていて、私が選びうる別のルートさえも、すべて彼の予測の範囲内だった。
「……ダメ。諦めちゃダメだ」私は涙を拭い、無理やり冷静に考えを巡らせた。「今度は戦略を変えなきゃ。受動的に避けるんじゃなくて、積極的にタイムラインそのものを変えるのよ!」
日中の出来事を思い出す。もし、おばあちゃんを一日中家から遠ざけることができたら? もし、他の人の助けを借りることができたら?
そうだ! コミュニティセンター!
二〇一七年十一月二十三日、コミュニティセンターで感謝祭のチャリティーディナーが開催されたことを、ふと思い出した。あの時は参加しなかったけど、もし私が積極的に手伝いを申し出れば、おばあちゃんは絶対に賛成してくれるはずだ!
そうすれば、おばあちゃんは家から、危険から離れていられる!
「今度こそ、すべてを完全に変えてみせる!」私は立ち上がり、再び画面に手を置いた。「私を戻して。もう一度やり直させて!」
画面に映るおばあちゃんの顔をじっと見つめる。しかし、今度も何も起こらない。
「どうして? どうして戻してくれないの?」私は力任せに画面を叩き、再び涙を流した。「私が間違ってたのはわかってる! ただ逃げるだけじゃダメで、積極的にすべてを変えなきゃいけないの! お願い……もう一度だけチャンスをちょうだい!」
私の涙が画面に落ち、おばあちゃんの愛情深い笑顔の上にちょうど着地した。その瞬間、画面が突如として明滅した。
一度目の穏やかな引き寄せられる感覚とは違い、今回は私の決意を試すかのように、はるかに強い感覚だった。
映像が激しく回転し始める。目も眩むような方向感覚の喪失。おばあちゃんの声が耳元で響く。「楓花、強く、生きるのよ……愛してる……」
私はすべてを委ねるように目を閉じると、得体の知れない力が私を捕らえ、意識は猛烈な勢いで時空の渦へと吸い込まれていく。視界は光と闇の奔流となり、平衡感覚は完全に失われた。
タイムトンネルの内部に、私の絶叫が、幾重にも折り重なって反響する。「どうしてまた同じなの! おばあちゃん! どうして……どうして……!」その声には、過去の絶望と、未来への不安が渦巻いていた。
その悲痛な叫びを嘲笑うかのように、蓮司の、底知れない悪意に満ちた笑い声が、時空の狭間を震わせる。「ルートを変えれば逃げられると思ったか、愚かな!」
「いいえ!」私の怒りは、時空の壁をも突き破る勢いで爆発した。「今度こそは違う! 絶対に、貴様の思い通りにはさせない! 私が、未来を変える!」
二〇一七年十一月二十三日、午前七時。
はっと目を開けると、見慣れたシングルベッドの上に横たわっている自分に気づいた。カーテンの隙間から陽光が布団の上に差し込み、キッチンからはチョコレートクッキーの香りが漂ってくる。
戻ってきた。二度目のタイムトラベル。だが今回は朝に戻っており、準備する時間がより多くあった。
体を起こし、拳を握りしめる。今回は違う――私は全く新しい計画と、より強い決意を持って帰ってきたのだ。
「悲劇は繰り返させない!」私は鏡の中の自分に言い聞かせた。「今度は私が主導権を握る!」
「楓花? 起きてるかい、かわいい子?」おばあちゃんの優しい声がキッチンから聞こえてきた。「大好きなチョコレートクッキーを焼いてるわよ!」
私は寝室から飛び出し、キッチンに向かって駆け寄った。
「おばあちゃん!」その温かい体を強く抱きしめると、涙がたちまち頬を伝った。
「あらあら、どうしたのかしら?」御影は私の背中を優しく撫でた。「怖い夢でも見たの?」
この「怖い夢」がすでに二度も現実になったことを、おばあちゃんが知る由もなかった……。
「おばあちゃん、今日、コミュニティセンターに手伝いに行こう!」私は突然顔を上げ、その瞳はかつてないほど決意に満ちていた。「感謝祭のディナーの準備でボランティアが必要なんだって。手伝いに行こうよ!」
御影は一瞬立ち止まり、それからにっこりと笑った。「もちろんいいわよ! ちょうどこのクッキーを、必要な人たちと分かち合いたいと思ってたところなの。知ってる? 秘密は少しの海塩と、そして何より.......」
「愛情を込めて作ること」私はその言葉を続けた。
「そう! 愛情を込めて作ることよ!」おばあちゃんは嬉しそうに手を叩いた。「うちの小さな楓花も、本当に大きくなったわね!」
今度こそ、おばあちゃんを一日中安全な場所にいさせる。日中はコミュニティセンターで、そして夜も家には帰らない――蓮司にチャンスは与えない!
私は無理に笑顔を作ったが、内面の緊張は猛烈に高まっていた。時間がない。早く行動しなければ。
朝食後、私はいつも通りバックパックを背負って学校へ向かったが、午前中はずっと上の空だった。
教室に座っていても、何度も腕時計を確認し、時間を計算していた。数学の先生が黒板で問題を解説しているが、私の心は完全に別の場所にあった。
午後二時二十分……授業終了まであと十分だが、コミュニティセンターは三時から始まる。今すぐ出なければ!
私は手を挙げた。「先生、お腹が痛いです。保健室に行ってもいいですか?」
数学の先生は眉をひそめたが、頷いた。「行きなさい、気をつけて」
「ありがとうございます」私は急いでカバンをまとめ、隣の席のクラスメイトに囁いた。「誰かに聞かれたら、気分が悪かったって言っておいて」
教室を飛び出した後、私は保健室には向かわなかった。代わりに、学校の敷地の塀に向かってまっすぐに走った。廊下ではまだ他の授業が行われている。見つからないように注意しなければならなかった。
校舎を回り込み、グラウンドを横切り、ついに学校の塀の一番人目につかない場所にたどり着いた。
この辺りはめったに人が来ず、授業をサボるには絶好の場所だった。まさに塀を乗り越えようとしたその時、強い手が突然私の手首を掴んだ。
「何してるんだ?」
