第4章

勢いよく振り返った私は、深い青色の瞳とぶつかった。太陽の光を浴びて輝く金茶色の髪、すっと通った鼻筋、そして私が夢にまで見た、あの顔.......

久我湊斗。

「わ、私……」私は言葉を詰まらせた。「急用があるの。コミュニティセンターでおばあちゃんを手伝わなきゃいけなくて」

湊斗は私をじろじろと見ながら眉をひそめた。

「お前、危ないことでもするつもりじゃないだろうな、東雲楓花? 名前、覚えてるぞ」

私の名前、知っててくれたんだ?

「どうして私の名前を.......」

「テコンドークラブがこの辺でよく練習してるだろ。何度か見かけたことがある」湊斗の表情がふと和らいだ。「何か手伝おうか?」

心臓が激しく高鳴った。私の記憶では、初めて湊斗と話したのは……おばあちゃんのお葬式だった。あの時、彼は私に近づいてきて、蓮司を訴えるのを手伝うと申し出てくれた……。

でも、今回は違う。今はおばあちゃんがまだ生きていて、私はこの男の子と新しく知り合うチャンスを手に入れたんだ。

「私……どうしてもこの壁を越えなきゃいけないの」私は唇を噛んだ。「通報したり、しないよね?」

湊斗は数秒間黙っていたが、不意にくるりと向きを変えて周囲を確認した。警備員がいないことを確かめると、彼はひらりとフェンスを乗り越えた。

そして向こう側から手を差し伸べてきた。

「ほら、受け止めてやるから」

私は呆然とした。本当に手伝ってくれるの?

「早く!」湊斗が急かした。「すぐに警備員が来ちまうぞ!」

深呼吸をして、彼の手を掴んだ。その瞬間、体中に不思議な電流が駆け巡るような気がした。

彼の手はとても温かかった……。初めて繋ぐ手なのに、どうしてか不思議と馴染む感じがする。

地面に足が着くと、私は頭一つ分背の高い湊斗を見上げた。

「ありがとう……でも、どうして助けてくれたの?」

「すごく困ってるみたいだったし、それに……」湊斗の頬がわずかに赤くなった。「君は、悪いことをするような人には見えなかったから」

彼の真摯な表情を見ていると、胸の中に複雑な感情がこみ上げてきた。未来の記憶の中の彼も、優しい人だった……。

「えっと……ありがとう。私、もう行かなくちゃ.......」

「コミュニティセンター? 俺もそこに行くところなんだ」湊斗は肩をすくめた。「今日は感謝祭のチャリティーディナーでさ。母親に手伝えって言われてて。弁護士一家の社会奉仕ってやつだよ」

えっ? 彼もそこへ? こんなの、元の時間軸にはなかったことなのに!

頭が高速で回転する。湊斗の存在が何かを変えてしまう? 私の計画に影響は?

「それじゃあ……一緒に行こっか」

私たちは小走りで向かい、十分もかからずにコミュニティセンターに到着した。

暖かい光が忙しく立ち働くボランティアたちに降り注ぎ、辺りには感謝祭ディナーの準備で漂う美味しそうな香りが満ちていた。すぐに、ラベンダー色のカーディガンを着たおばあちゃんの姿を見つけた。

「楓花!」おばあちゃんが手を振った。「あら、こちらの素敵な若者はどなた?」

「久我湊斗です。はじめまして」湊斗は礼儀正しく手を差し出した。

おばあちゃんは彼の手を握り返し、驚いたように目を瞬かせた。

「久我? あの久我法律事務所のご一家の?」

「はい、そうです」

「まあ、なんて立派な坊やなんでしょう!」おばあちゃんは顔を輝かせた。「楓花、いいお友達ができたのね!」

私は顔を赤らめた。

「おばあちゃん、私たちはただの……クラスメイトだよ」

これが初めてちゃんと会った日なのに、彼がとても特別な存在に感じられた。

それからの二時間、湊斗とおばあちゃんと私の三人でチョコレートクッキーを配ったり、ディナーの準備を手伝ったりした。湊斗がいつもさりげなく重いものを運ぶのを手伝ってくれたり、私の表情を盗み見たりしていることに、私は気づいていた。

そして何より、私たち二人を見るおばあちゃんの眼差しが、どんどん優しくなっていくのがわかった。

「湊斗くん、うちの楓花を助けてくれてありがとうね」おばあちゃんは湊斗の手を取った。「あなたはいい子だわ」

湊斗は顔を赤らめた。

「いえ。楓花さんは特別ですから。力になれて嬉しいです」

特別? 私が、特別……?

心拍数が上がった。でも、今夜私たちが直面する危険を思い出し、私の顔から瞬時に笑顔が消えた。

おばあちゃんは私の表情の変化に鋭く気づいた。私のそばに歩み寄ると、優しく髪を撫でてくれた。

そして、私が決して忘れられない言葉を口にした。

「うちの楓花を心から愛してくれる、いい男の子がいたら、それは神様が私たちにくれた最高の贈り物だわ」

おばあちゃんは湊斗と私を見て、愛情に満ちた目で言った。

「この世界に、うちの小さな天使を愛してくれる人が一人でも増えれば、私も安心できる」

涙がどっと溢れ出た。でも、私がおばあちゃんに望むのは、ただそばにいてくれることだけだった。

「おばあちゃん……」

「どうしたの、可愛い子?」御影おばあちゃんは優しく私の涙を拭ってくれた。

おばあちゃんはいつもこうして私のことを考えてくれる……。でも今夜、私は絶対に、おばあちゃんを傷つけさせたりしない!

「なんでもない。ただ……おばあちゃんのことが、大好きだなって」

「私もよ、楓花。いつだってね」

湊斗は私たちの祖母と孫のやりとりを、複雑な感情を瞳に浮かべて、静かにそばで見ていた。

おばあちゃんと湊斗が楽しそうに話している光景を眺めながら、私は心の中に温かさと不安の両方を感じていた。

今回は昼間の軌道を変えた。今夜、蓮司が機会を見つけるはずはない……。でも、油断は禁物だ。絶対に、二度とおばあちゃんを傷つけさせたりしない!

夕暮れの陽光が白鷺市の通りを暖かな金色に染める中、私とおばあちゃんは手をつないで家路についていた。私たちの影は長く、遠くまで伸びていた。

「よし! 今回は成功した!」私は心の中でガッツポーズをし、足取りが軽くなった。「蓮司が私たちを見つける隙なんて、まったくなかったんだから!」

隣にいるおばあちゃんをこっそり盗み見る。その優しい顔は、夕日の中で特に穏やかに見えた。おばあちゃんはにこにこと鼻歌を歌いながら、コミュニティセンターで残ったクッキーをまだ持っていた。

「なんて素敵な一日だったんでしょう」おばあちゃんは満足そうに言った。「あの湊斗くんっていう子、本当にいい子ね。あの子があなたを見る目は、昔、あなたのおじいさんが私を見ていた目とそっくりだわ」

私の頬が赤くなり、今まで感じたことのないほどリラックスしていた。

「おばあちゃん、お祝いに家に帰ったら一緒にクッキーを作ろう! おばあちゃんが教えてくれた秘密のレシピで。少しの海塩と、そして一番大事な.......」

「愛情を込めて作ること」。私たちはこの言葉を同時に口にして、二人で笑い合った。

「そうよ、可愛い子」おばあちゃんは優しく私の髪を撫でた。「家族こそが、神様が私たちにくれた最高の贈り物なのよ」

私はおばあちゃんの手を固く握りしめ、心は達成感で満たされていた。私は昼間の予定を変え、おばあちゃんを一日中コミュニティセンターに留め、湊斗もそばで守ってくれていたのだ。

マンションに近づいた時、私の足がぴたりと止まった。夜はすっかり更け、街灯がちょうど灯ったところだったが、すべてが普段通りに見えた。怪しい人影も、危険の兆候もない。

私たちは無事に八号棟の五〇二号室に戻ってきた。おばあちゃんがドアを開けると、懐かしい家の匂いが私たちを包んだ。すべてがとても静かで、ごく普通だった。

「今日は本当に疲れたわ」おばあちゃんはあくびをした。「早めに休むことにするわね」

「うん、おばあちゃん」私は心の中ではまだ緊張していたが、無理に軽い笑顔を作った。「おやすみ、大好きだよ」

「私もよ、可愛い子」おばあちゃんは私の額に軽くキスをした。「いい夢を」

おばあちゃんが部屋に入るのを見届けてから、私は慎重に自分の寝室へと向かった。もしかしたら、本当に運命を変えられたのかもしれない。今夜、蓮司は来ないのかもしれない……。

寝室のドアを押し開けた。月明かりがカーテンの隙間からベッドの上に差し込んでいる。すべてがとても静かだ。私は安堵のため息をつき、パジャマに着替え始めた。

ジャケットを脱ごうとした、その時。後ろからごつごつした大きな手が私の口を覆った。

「しーっ……声を出すな」あの聞き覚えのある声が、不快な熱い息と共に私の耳元で囁いた。「お前たち二人を、一日中待ってたんだぜ」

蓮司! まさか……私の部屋に隠れていただなんて!しぬ!

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