第35章 T市へ行く

病院の廊下には、ここでしか嗅げない消毒液の匂いが漂っていた。冷たく、鼻の奥を刺す。

診察室では、年季の入った中年医師が俯き、ピンセットでヨード液を染み込ませた綿球を挟んで、加藤浩史の頬の擦り傷を慎重に拭っている。

処置の間、加藤浩史は一言も発しなかった。伏せた目で、膝の上に置いた自分の手を見つめている。何を考えているのか、表情からは読み取れない。

菅田美波はその横に立ち、腕を組んだまま静かに見守っていた。

視線は淡い。緊張でこわばった少年の顎のラインへ落ちる。白い肌の上に新しく刻まれた傷が、やけに目立った。

「怖くなった?」

ふいに落とされた声が、静まり返った診察室で妙にくっきり...

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